冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 あの傷だらけのバイクが頭をよぎる。

 それを振り払った。

 ダイニングに入る。

 使った形跡はなかった。

 調理場に。

 今日―― 使った形跡はなかった。

 乾いたままのシンク。

 ぱっと身を翻して、ハルコは階段を上った。

 いま、自分が妊婦であるという自覚は、スコンと抜け落ちてしまっている。

 早く、このイヤな考えから抜け出したかったのだ。

 どういうことなのか、ちっとも分からない。

 ただ、イヤな気配だけが足首にまとわりついている。

 メイの住んでいる客間をノックする。
 返事がないので開けてみた。

 何も変わらない部屋。

 いるかいないか、区別がつかない。

 元々、彼女はたくさんの持ち物を持っていないのだ。

 持っているのは、ささやかな日用品と服。

 服。

 ハルコは、クローゼットを開けた。

 ガクゼンとした。

 ほとんどの服がなかったのである。

 残った服は、ホコリをかぶらないようにか、たたんでビニールの中に入れて置いてある。

 確信だった。

 何か起きたのだ。

 彼女が来ていない間に、この家で何か起きたのである。

 ハルコは、彼女の部屋を出てから、カイトの部屋に行った。

 彼がいないのは分かっていたので、ノックもなしに開けた。

 バタン!

 我知らず強い力になっていたようだ。ドアはそんな大きな声をあげた。

「…!」

 ハルコは、びっくりした。
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