冬うらら~猫と起爆スイッチ~

『出て行かれました』

 一言。

 そんな事実だけで済ませてしまう男に、電話を回してもらったのである。

 確かに、その言葉に衝撃は受けた。

 しかし、心のどこかに可能性を感じてはいた。

 きちんと整頓された室内も、その匂いを色濃く残していたし。

「週末に何があったの?」

 一番聞きたいのは、そこなのだ。何故、彼女が出ていってしまったのか。

『分かりません』

 なのに、なのに―― このメガネときたら。

 こういうことでは、まったく役立たずなのだ。

「推測か何かないの? あなたが見た、2人の雰囲気とか?」

 しかし、いま頼れるのは彼しかいないのだ。

 あの家のもう一人の住人。

『推測…ですか? 推測よりも、実際に起きたことを時系列でお話しした方がよろしいですね。時間も余りありませんので、手短にお話します』

 シュウの話した、実際に起きたことというのは。

 5日前。

 シュウが帰ってきたら、玄関のドアは開けっ放しで、玄関先にカイトのケイタイが、床に転がって壊れていた。

 それからずっと、カイトはほぼ毎日のように遅くまで残業しているようだった。

 そして昨日の朝方、二階のカイトから電話がかかってきた。
 ケイタイが壊れているので、家の電話を使ったらしい。

 そこで、メイが出ていく旨を伝えられた。

 彼女が出ていくまで家に残るように言われて、お金を渡すことと、足りない場合はシュウに連絡できるように連絡先を渡すことを指示された。

 カイトは、300万を渡して会社に出かけた。

 シュウは、読書をしながらメイの起きてくるのを待った。

 外で物音がしたので出て行ったら、彼女がいたので、支度が済んだら部屋に来るように言った。

 部屋に来たので、指示されたことをすべてクリアして、彼の仕事は終わった。

 彼女も出ていった。

 以上。
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