冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●153
 部屋は、あっさりと見つかった。

 駅の裏手の方で、場所的には便のよいところだが、築15年の木造だったので安かった。

 不動産屋には、怪訝な目で見られた。
 職ナシな上に、今日から入ってもいいかと言ったのだ。

 保証人をと言われたので、しょうがなくシュウからもらった名刺を出した。

 電話で確認を取られている間、ドキドキして待っていたが、彼は承諾をしてくれたのだろう。

 あっさりと借りられることになった。
 名刺についていた会社名と、副社長という肩書きが効いたのかもしれない。

 部屋に案内してもらって、わずかばかりの手荷物を降ろす。

 ガランとした六畳一間。
 台所まで何の仕切もない。

 聞こえよく言うなら、1ルームとでも表現できるか。

 電車が、近くを走っていく音がする。
 踏切のカンカンという音も。

 いままで、彼女が郊外に住んでいたことが分かった。
 街中は、こんなにまで音が溢れているのだ。

 まだ昼過ぎ。

 やらなければならないことがたくさんあった。

 このままでは、夜に寒い思いをしなければならないのだ。
 エアコンなんか、当然ついていないのだから。

 まず布団と、せめてヒーターかストーブを。テーブルも。

 来る途中に、リサイクルショップがあった。

 そこに見に行けば、きっと新品ではないけれども、安いものが手に入るんではないかと思った。

 これから、一人暮らしの生活が始まる。

 仕事も探さなければならない。

 預かったお金を、食いつぶしていくワケにはいかないのだから。

 買ったばかりの財布に、福沢諭吉を数枚入れる。リサイクルショップは近くなので、足りなければまた取りにこようと思って家を出た。

 歩く。

 頭が―― 考えることを、どうにも拒否しているように思えた。

 これから住むあの部屋を見た時、何かがわき上がりそうになったのに、パタンとフタが閉められた。

 こうして一人で、歩いて買い物に出かけているこの瞬間もそうだ。

 行動や事実に対する感情が、溢れて来そうなのに止まってしまった。

 電車が行き過ぎる。
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