冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 今日、家を出て以来、ずっとフタをしていた人のことを。

 カイト。

 出てきたばかりなのに、彼の名前を思い出した途端、また会いたくてしょうがなくなる。

 最後の辺りの彼ではない。

 仏頂面でも、メイを拒まない頃のカイトだ。

 ご飯を食べて、『うめぇ』と言ってくれて、黙ってお茶にもつきあってくれるカイトだ。

 あの事件の後の彼は、余りに辛そうで見ていられなかった。

 彼女がいたから。

 だから、あんなに辛そうだったのだ。

 何か。

 彼が一番イヤだと思っている地雷を、メイが踏んでしまった。

 それは分かった。

 あの日から、何もかも変わってしまったのだ。

 気づいたら、いま自分はこんなところに一人。

 もう借金はないけれども、心の中にずっしりとカイトだけが残っている。

 あの3週間の日々が、心の中を占めているのだ。

 好きだった。

 いや、それはいまでも同じだ。

 カイトを紙袋に入れて持ってこられないというのなら、彼女はこの気持ちこそ、あの家に置いてこなければならなかった。

 そうでなければ、きっと毎日毎日思い出してしまう。

 彼とあの家でのことを。

 一時はフタをすることが出来ても、こんな風に一人になってすることがなくなると―― 押し寄せるように、メイを飲み込むのだ。

 でも、連れて来てしまった。

 きっとこの気持ちは、抱き続けて汚れてボロボロになったクマのぬいぐるみのようになっても、彼女は手放せないのだ。

 あんな人とは。

 もう一生巡り会えない。

 それが分かっていたのだ。
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