冬うらら~猫と起爆スイッチ~
☆154
「ただいま…」

 今日も仕事は順調、空腹感もちょうどいい―― 帰宅するまでのソウマは、人としての充実感を満喫していた。

「あなた!」

 しかし、帰り着くやそんな気持ちが吹っ飛ぶ。

 妻が青ざめた顔で、出迎えてきたのだ。

「おいおい…そんなに慌てて、危ないじゃないか」

 その身体を抱き留める。

 何か、よくない事件が起きたのだ。

 まさか子供に。

 一瞬、さすがのソウマもヒヤリとしたが、ハルコはそんな彼に紙を差し出した。

 ぺらっとした薄い紙だが、何か書いてある。

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ハルコさんへ。


突然、何の相談もなく出て行ってしまってすみません。

もうここには、いられなくなってしまいました。

返しきれないご恩があるというのに、こんなことになってしまって、すごく心残りです。

私にとっては、この家にいた毎日が夢のようで。一生忘れられない思い出です。

毎日毎日、すごく幸せでした。

ハルコさんにも、本当に言葉で言い表せないくらいお世話になりました。ありがとうございました。

私がお借りしていた部屋の机の引き出しに、お預かりした貯金通帳などが入っていますので、よろしくお願いします。

それから、彼から預かった現金も一緒に入れておきます。

クローゼットに服が少し残っています。どうしても、入りきれなくて持っていけなかった分です。せっかく買ってきていただいたのに、申し訳ありません。

あとは…他は、もう多分ないと思います。

それでは。

本当にありがとうございました。元気な赤ちゃんを産んでくださいね。ずっと、祈ってます。


キサラギ メイ

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「こりゃあ…」

 ソウマはうなった。

 お別れの手紙、というヤツだった。

 これを残して、彼女はあの家を出て行ってしまったのだ。
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