冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「何をやったんだ、あのバカは」

 とりあえず、ハルコを宥めるように腕を回しながら居間に向かう。

 そしてソファに座らせた。

 すぐ隣に自分も座り、身体をもたれさせてやる。

 まずは、妻を落ちつかせなければならなかった。

「何も書いてないのよ…何故、出ていくことになったのか」

 ちょっとしたことくらいで、出ていくハズはないのに。

 ああ、どうしましょう―― ハルコは、本当に珍しくオロオロしていた。

 彼らに注いでいた期待が、余りに大きかったせいだ。

 ちょっとしたことくらいで、出ていくハズがないというのなら、相当の事件が起きたのだ。

 聞けば、カイトとは連絡がつかないらしい。

 というか、相手が電話を取らないのだ。

 何度もハルコがケイタイの方にかけたらしいが、すぐに留守番電話になってしまうという。

 カイトは、留守電が嫌いだ。

 吹き込むのも、その声を聞くのも好きでないのを、ソウマは知っている。

 そんな彼が留守電にしているということは、最初からそこに入っているメッセージを聞く気もないということだ。

 これは。

 カイト自身も、相当コタエているのが想像出来た。

 もしくは怒って―― いや、それはありえない。

 ソウマは、自分の想像を却下した。

 あのカイトが、あのメイに怒ることなど想像も出来なかったのだ。

 どんなに怒鳴っても、それはいま考えた怒りというのとは違う。

 メイの文面も、怒っている様子はどこにもない。

 淡々と書かれていることで、余計に悲しささえ伝わってくるようだ。

「シュウなら…」

 何か知ってるんじゃないか?

 ソウマは自分のケイタイを取ろうとした。

「もう聞いたわ…知ってることは全部。でも、全然お話にもならないのよ」

 目撃した事実だけを、彼女に並べて見せたらしい。

 やれやれ。

 あの家に住んでいる連中ときたら、2人とも問題児だった。
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