冬うらら~猫と起爆スイッチ~

12/23 Thu.

△157
「社長…」

 シュウは目を細めた。

 非常に不快な気分だったのである。

 カイトは開発室にいて、更に私服のままだったのだ。

 一昨日、わざわざこの雑然とした開発室まで出向いて、大事な契約書類と今日の予定まで伝えたのである。

 なのに、この有様だ。

 しかも、よく見れば―― 一昨日と同じ私服である。

 そして、まるで渡されたばかりかのような綺麗な契約書類が、ディスプレイの上に無造作に乗せてあるではないか。

 目を通した様子さえない。

 挙句、シュウを無視したまま、キーボードを叩き続けている。

「社長、今すぐ背広に着替えてください。約束の時間に遅れます」

 強い口調で呼びかけると、ようやく顎を上げる。

 立ち上がり方がおぼつかないのは、シュウの忠告を聞いていないということになる。

 生命維持に必要な、最低限の栄養素が足りていないのだ。

 おそらく、ずっと帰っていないのだろう。

 記憶のある限り、最近自宅でカイトを目撃した記憶さえない。

 ということは、ずっとここにいたことになる。

 睡眠も足りていないだろうし、衛生状態も改善されていないのだ。

 まったく無言で、カイトは開発室を出ていく。

 着替えに行くのだ。

 社長室の方に、背広を一揃え置いていた。

 それが久しぶりに役立つ。

 やれやれ。

 彼がいつも発散している無駄なパワーは、どこにも感じられなかった。

 覇気がないというのが、はっきりと見て取れる。

 ただ、ずっとコンピュータの前に座り続けているのだ。

 置き去りの契約書類を取ってから、シュウが開発室を出ようとした時、後方がいきなり騒がしくなった。

 何事かと振り返ると、開発室のスタッフたちが、カイトの座っていたコンピュータの前に群がっているのである。

 目を細める。

 何をしているのか分からなかったのだ。
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