冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 自分がこんな格好をしているというのに、メイはあまりクリスマスの実感がなかった。

 今年は、クリスマスから隔離されているようなところで、静かに生活をしていたせいだ。

 ただ、カレンダーの日付だけが、12月24日になったのだ。

 けれども、この環境もいまの仕事も、自分で考えて決めたことである。

 ちゃんと、クリアしなければならない。

 ああ。

 でも、どうせなら。

 こんな風に出会いたかった。

 メイはパン屋に勤めていて、街頭でケーキを売っていて。

 カイトは、会社の帰りに通りかかって。

 背広とかコートのまま、何故かケーキを買うのだ。

 それが、彼との一番最初の出会いだったらよかった。

 そうだったら、きっと勇気を出して、当たって砕けてもいいから『好きです』って言えたのだ。

 たとえ、結果がどうなったとしても。

 絶対に、絶対に、告白したのに。

 でも、きっと彼はこんなところは歩かないし、ケーキに目もくれたりもしないだろう。

 出会いは―― 結局なかったのかもしれない。

 同じ目の高さで。

 間に何のシガラミもなく。

 好きとか嫌いとかを、堂々と表現できたら。

 きっとカイトがケーキを嫌いだと知っていたとしても、『メリー・クリスマス! ケーキはいかがですか?』って、大きな声で呼びかけられただろう。

「ごめんねぇ」

 隣から声をかけられて、メイは、はっと我に返った。

 見れば、もうあの男の人はいない。

「売れ残ってるって分かってて来るから頭にくるよねー。10個くらい買ってくれたらいいのに」

 彼女も早く仕事を終わりたいのだろう。

 ちょっとふくれながら、在庫のケーキを見る。

 でも、わざわざ彼が訪ねてきて嬉しそうなところが―― 羨ましかった。
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