冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 人間には人格がついているので、生き残った連中だけで一人ずつミニ・エピソードのエンディングをつけたりするのが、このテのシミュレーションゲームの定番だろう。

 幸せになりましたとさ、めでたしめでたし。

 しかし、カイトはそういう気にはなれなかった。

 こんな気持ちで、どんな幸せを彼に作れというのか。

 ラストは――

 カイトは頭を振った。

 ただゲームのエンディングを考えようとしただけで、意識がずぶずぶと深海に沈んでいこうとするのだ。

 彼は、画面上に女を一人作った。

 戦いに参加しない女である。

 ビジュアルは描けないので、プログラム上の存在として生み出したのだ。

 最終MAPでボスを倒した後に、初めて画面上に姿を現す。

 しかし。

 プレイヤー側のこれまでの行動によって、その女とのエンディングが変わるのだ。

 誰も殺さず、誰も化け物にせずにそこまでたどりつけば、彼女はプレイヤーの元に返ってきて、人間界は平穏に戻る。

 しかし、誰か一人でも死んでいれば、彼女がプレイヤーを殺す。

 誰か一人でも化け物にしていれば、プレイヤーが彼女を殺す。

 両方やっていれば、どちらかのバッドエンドが発生する。

 ただ一つの。

 過ちさえも許さないゲーム。

 一度でも、力を得ることに心を奪われたり、「まあいいや、こいつが死んでも他がいれば」と思ったりした瞬間に、二度と彼女を取り戻すことは出来ない。

 過ちナシで、そのエンディングにたどりつける可能性は、多分、万に一つ。

 腕がもげても、戦闘で使えないものが出ても、決して誰一人として心も命も失わずに。

 そんなこと、不可能だ。

 きっと、彼女は取り戻せない。


 カイトは―― 女に名前をつけられなかった。
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