冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「おい、こっちを…」

 向け。

 しつこくパソコンに向かい続けているカイトの肩を掴むと、自分の方を振り返らせようとした。

 しかし、その身体は意外に軽く。

 抵抗もなかった。

「…!」

 見てしまった。

 何て…顔だ。

 死神にとりつかれたような表情だった。

 顔色は悪く、目の下にはご丁寧にクマまで作って、目も淀んでいる。

 普通の状態ではない。

 メイが出ていってから、一体どんな生活をしたら一週間でこうなってしまうのか。

「放せ…!」

 それでも、ようやく彼に掴まれている肩を振り払おうとする。

 またも、パソコンに向かおうとするのだ。

 訳の分からないゲームらしき画面が見えた。

 プログラムを組んでいるのだろう。

 こんな時に!

 ソウマは、もう一度肩を掴むと手加減なしに後ろへ引っ張った。

 ガシャーン!!!

 椅子ごと床にすっ転がす。

 そのすっ転がった身体を、ソウマは胸ぐら掴んで引き起こした。

「コンピュータにしがみつくのはよせ! 今、やらなければならないのは、そんなことじゃないだろう!」

 その鼻面向かって、珍しくソウマは大きな声を出した。

 腹が立ったのだ。

 何があったかは知らない。

 しかし、いまカイトがこんな風になっているということは、望んで彼女を失ったワケではないのだ。
< 738 / 911 >

この作品をシェア

pagetop