冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「もう、何とでも言ってくれ…」

 力関係的には、この女将の方が上らしい。

 メイは、クスッと笑ってしまった。

「まあ、一杯…どうぞ」

 ちっちゃな桜色のお猪口を出されて、それじゃあちょっとだけと受け取る。

 女将の白い手で、日本酒が注がれた。

「はい、ジョウくんも」

 にこにこ。

「そりゃあ、どうも…」

 巡査も、苦笑しながらそれを受ける。

 一口つけた。

 甘い。熱い。胸にじーんとした。

 幸せになるワケではないのだが、少しだけ身体の強ばりが取れるような気がする。

 外が寒かったせいもあるのだろう。

 女将は、他のお客に呼ばれて行ってしまった。

 ざわざわとした店のカウンターで、2人でちびりちびりとお酒を飲む。

「あの後…何かあったのか?」

 ジョウがぽつりと聞いた。

 メイは、一生懸命思い出さないようにしながら、首を横に振った。
 何を聞かれても、とにかく首を横に振り続けた。

「あらあら、そんなに振ったら首がもげるわよ…ジョウくんにいじめられたの?」

 そうしていると女将が戻ってきて。

 ようやく、彼女はその話題から逃げることが出来た。

 彼が、全然納得していないのは分かっていた。

 でも、もうあの時の話はしたくなかったのだ。

「大体、ジョウくんの様子を見ていると、女の子と話をしているって言うよりも尋問してるって感じよ。それじゃあ、彼女も怖がるわ」

「やれやれ…ここじゃあ、いつもこうだ。オレが悪者か」

 歯に衣着せぬ言葉に、巡査もたじたじのようだった。

「それじゃあ、悪者は退散しよう」

 と言って、いきなりジョウは席を立つ。

 私も帰らなきゃ、と思って慌てて立ち上がろうとする。

 が。

「あら、あなたはもうちょっといいじゃない。急いでいないなら、ゆっくりしていきなさい」

 と言って引き止められた。
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