冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●17
 1時間とちょっと。

 今度は、まったくもって何もせずにボンヤリとしていた。

 そうするより、メイには他にすることがなかったのだ。

 勝手に、人の家をあちこちウロつくワケにもいかない。

 とりあえず、顔を洗ってさっぱりはしたものの、心はまだ全然晴れやかではなかった。

 ぼーっとしながら、いろんなコトを考えてみる。

 何度もリプレイしてみた。
 昨日の夜からずっと。

 何回思い出してみても、頭に残っている以上の情報は出てこない。

 結局、バターにすぎないのだ。

 ふぅ。

 何度目ともしれないため息をついた時、車の音が聞こえた。

 はっと顔を上げる。

 カイトが帰ってきたのか、それとも彼女か。

 でも、多分後者だろう。

 朝、彼は背広を着て出て行ったのである。

 普通の仕事であるというなら、きっと夕方までは勤務のハズだから。

 でも。

 あの女の人は、誰なのかな。

 大人の女性。

 確かにメイもハタチを越えていて、でもペーペーのOLだったのだ。

 まだ、全然社会にもまれていなくて、世の中のことなんか分かってもいない。
 ちょっとかじっただけだ。

 けれど、あの人は――そういうものを全て噛み分けているような笑顔を浮かべるのだ。

 静かだけれども、存在感のある人。

 考えてみれば。

 なんてこの家に住んでいるのが、ふさわしい人なんだろう。

 メイは、そう思ってしまった。

 キュウッ。

 また胸が、動物の赤ん坊のような鳴き声を上げた。

 彼女は、ふいと首を横にそらした。

 だからといって、感じなくなるワケでもないというのに。
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