冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 カイトが開発室に入った時、もうスタッフの連中のほとんどが出勤していた。

 ざわざわと騒々しく、まるで納期前のような慌ただしさだ。

 みんな、彼が入ってきたのを見るなり、ドタバタとあちこちに散っていく。

 少し静かになった。

 そんな、開発室の連中の不穏な様子に関知しなかった。

 どうでもいいことだ。

 いつもの席に座り、サーバー内のデータを呼び出す。

 そして、キーボードを叩き始める。

 コビトがいた。

 カイトがそれに気づいたのは、MAPを増強しようと思っていた時だった。

 MAPの画像データくらいなら、パーツを使ってカイトは作ることが出来る。

 しかし、その画像データを入れているところに、見たこともないMAPデータがいくつも入っているのだ。

 呼び出してみると、複雑な山並み。村落、市街地、海辺、渓谷、湿地帯。

 実に、波乱にとんだMAPが用意されている。

 キィ。

 カイトは、椅子をきしませながら振り返った。

 全員忙しそうに仕事をしている―― ように見えて、この中の誰かがコビト作業をしたのだ。

 彼がこの席を離れていたり、一日いなかったりしたことが何回もあった。

 そして、プログラムはサーバー内にあった。

 この事実を検証すると、スタッフの誰かが彼のゲームを見て、そしてMAPをこしらえて突っ込んでいたのである。

 要するに、これを使ってくれ、ということだ。

 いや、こういうMAPでやってみたい、というところか。

 油断も隙もない連中である。

 日常生活には、全然鼻がきかないくせに、こういうところでは犬以上の嗅覚を見せるのだ。

 それが、ゲームおたくとか、ゲーマーとか呼ばれる人種だった。

 カイトは、用意されたMAPを見た。

 1/3は興味のないMAPだったため、考えるヒマもなく削除した。

 1/3は、明らかに彼の好みを分かってるヤツが作っているMAPだ。それは残す。

 残りの1/3は、手を加えて使えそうなものを選別して、ダメなものは削除した。

 おかげでMAPを作る手間が省け、ほとんどの面が完成したことになる。
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