冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 病院からの帰り道。

 せっかく出かけたし、ソウマも一緒なので、夕食の買い物をして帰ることになった。

 メイを連れていったスーパーに寄ったが、やはり彼女の姿はない。

 あの家からこんなに近くには、やはりいないようだ。

 駅前に出る。

 年末で、人が気ぜわしく歩いているので、ソウマが気遣うように横を歩いてくれる。

 本当は、取り立てて必要なものなどないのだ。

 ただ―― あんなカイトを見てしまうと、どうしても心が急いでしまう。

 一刻も早くメイを探し出して解決策を見つけなければ、彼があのまま死んでしまうのではないだろうかと、心配になったのだ。

 ソウマの手配で、カイトをお正月明けまで入院させる手続きに成功したので、その間に強制的だが体力は回復するだろう。

 しかし、その後も同じことを繰り返すだけならば、入院も意味がなかった。

 またかつぎ込まれるか、もしくはもっとひどい事態になりかねない。

 カイトは、いつも自信たっぷりで、人の言うことなんか聞かずに、自分の道をドロ靴でドスドス歩いてきた人間だった。

 苦笑をすることもあったし、困ったことだってあった。

『何だ、あいつは。失礼なヤツだな!』と、周囲の何人もの人間に言われた。

 けれども、彼は自分のやりたいことを見失ったりせずに、獣道でも赤い絨毯の上でも、構わず目標に向かって歩いてきたのだ。

 そんな彼が―― 恋をした。

 恋をしているカイトは、まるで別人だった。

 信じられない光景を、いくつもいくつも見てしまった。

 本当に、彼女のことを好きでたまらなくて、その気持ちを変な角度でぶつけてしまったのだ。

 数日前、カイトの家から帰ってきたソウマは、服を湿らせたまま話してくれた。

 彼らの知らない、おそらく起きたであろう事件を。

 きっと。

 あの、メイが行方不明になった日のことが原因だろう。
 どう考えても、引き金らしきものは、それくらいしか見つからない。

 ああ、こんなことに…。
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