冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 昨日は遅番で。閉店までの勤務だった。

 だから、『明日なら…仕事は夕方で終わりですから』と、食い下がるハルコを納得させたのだ。

 明日、仕事が終わったら、絶対に電話をちょうだい、と何度も念を押されてケイタイの番号を渡された。

 あんなに一生懸命訴えるハルコを見たのは初めてだった。

 心配をさせてしまったのだろう。

 だとすると、物凄く胸が痛い。

 そして、ついに仕事が終わってしまった。

 店の近くの公衆電話から、震える指でハルコのケイタイ番号を押した。

 これを押してしまうと、あの日のことを、また一から全部思い出さなければならないのだ。怖くてしょうがなかった。

 もうあんな思いをするのはイヤだ。

 けれど。

 靄が。

 胸の中に、そんなものが立ちこめているのである。

 自分のカギだけでは開かない扉を、ハルコとソウマがいくつか開けてくれるに違いなかった。

 でも、怖い。

 怖いまま―― 2回、電話番号を押し間違って受話器を戻す。

 3回目。

 ようやく、メイは全部の番号を押すことが出来た。

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