冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「すみません…ご心配をおかけしたみたいで」

 お茶を持ってきてくれたハルコに頭を下げる。

 彼女には、どんなに頭を下げても足りないくらいだ。
 大事な身体なのに。

「いいのよ…こうして、また会えたんですもの。嬉しいわ、本当に」

 本当よ。

 何度もハルコはそう繰り返した。

 この世に、こんなに自分がいなくなったことで、寂しく思ってくれている人がいたのだ。

 たった一人でも、すごく胸にしみるものだった。

 毎日、誰もいない家に帰るのがつらくて、実は、昨日も居酒屋に行ってしまった。

 あの女将と話したかったのだ。

 話せば話すほど、彼女は楽しい人であることが分かった。

 若いけれども、いろんな苦労をしてきたようで。

 好きという人とも、前に事情があって一度別れたらしいのだ。

『別れていても、私はずっとあの男が好きだったわ』

 そう言った彼女の笑顔が、メイの胸に石を一つ積んだのだ。

 靄がまた濃くたちこめた。

 離れていても―― まだ、こんなに好き。

 その気持ちが石だったのだ。

 そして、女将に曖昧に内容をごまかしながら、今日のことを相談したのだ。

 彼女は、『行ってくればいいじゃない』と、それだけ言った。

 軽い口調ではあったが、メイの背中を押してくれたのは間違いなかった。
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