冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 だから、電話を途中でやめずに済んだのだ。

 ついに、ここに来てしまった。

「オレは、ちょっと出かけてくるよ」

 ソウマは、そのままソファには座らなかった。

 ハルコの頬に軽くキスをすると、上着を持って出ていってしまう。

 気を利かせてくれたのだろう。

 男である彼には、話しにくいところがあってはいけないから、と。

 本当に、優しい人たち。

 湯気の上がるティーカップがおかれた。
 白磁に、紫の花が描かれている綺麗なカップだ。

「いただきます…」

 ふぅっと湯気を吹いて、一口つけた。

 これはお茶だ。

 だが、居酒屋で飲んだ日本酒と似ている。

 あったかくて、じんとした。

 そして分かったのだ。

 お酒だから、お茶だからではなかったのだ、と。

 誰かがそこにいてくれて、自分のために用意してくれたものだから―― こんなに胸がジンとするのだと。

 目の裏側がじわっと熱くなる。

 まだ。

 何一つ、話していないというのに。

 何一つ、事情を聞かれていないというのに。

 涙が溢れてきてしまった。

「ごめんな…」


 最後まで、それは言えなかった。
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