冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 話が全然進んでいないことを知ったソウマが、もう一度出て行こうとするのを押し止める。

 止めたのは―― メイだった。

「いいんです…いてください」

 魔法のお茶かどうかは分からない。

 けれども、あたたかいお茶が指先にまで届いて、彼女の心を穏やかにさせてくれた。

 ゆっくりなら。

 彼らに事情が話せそうな気がしたのだ。

 どこから話すべきか。
 それは躊躇したけれども。

 メイは一度、唇を強く引き結んだ後。


「初めて、彼と出会ったのは…」


 そこから、話し始めた。

 出会いを話す。

 連れて来られた経過を話す。

 彼を好きになってしまったことも。

 一つ一つ、ぽつぽつと―― ずっと、たんすの奥に閉まっていた単語を拾いながら、2人に説明していく。

 そして、別れを。

 メイが迷子になってしまって、カイトが迎えにきてくれたこと。

 怒ったままベッドに倒されはしたけれども、それ以上は何もされなかったこと。

 それから、彼がすっかり変わってしまったこと。

 彼女を避け、顔も見るのも辛そうだったこと。

 これ以上、側にいるとカイトが苦しむだけなのが分かって、別れを告げたこと。

 すぐに承諾されたこと。

 最後までよくしてもらって、結局一人暮らしを始めたこと。

 いまのパン屋のアルバイトを見つけたこと。

 クリスマスにケーキを売ったことまで話した。

 そして、2人を見た。

 2人は―― 呆然としていた。
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