冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 それに、本人にしてみればありがた迷惑だろうが、ソウマとハルコだって、心配をしたのだ。

 ソウマは殴れば気が済むが、ハルコはそういうワケにはいかない。というよりも、それ以前に彼女は妊婦で。

 おかげで余計にソウマに心配をさせたのだ。

 人混みの中に、メイを探しに行きたがったりするし。

 しかし。

 それもどうやらこれで終わりだ。

 こんなくだらない誤解はすぐに解いて。

「ねぇ、メイ…」

 切り出したのは、ハルコの方だった。

「いまでも…カイトくんのことが…好き?」

 その問いに、彼女はコクンと頷く。

「カイトくんね、あなたが出て行ってから…すごくつらそうだったわ。あなたを失ったのが、本当に苦しくてしょうがないみたいに」

 ハルコの言い聞かせるようなゆっくりした声には、何か秘密が隠されているように思う。

 少なくとも、ソウマにはいつもそう感じられた。

 どんな人間でも、ついその内容を聞かずにいられないのだ。

 あのカイトですら、いまのような状態でさえなければ、彼女の話くらいはちゃんと聞くのである。

 内容を受け入れるかどうかは別として。

 一緒に月蝕を見てからずっと、何度もこういう光景を見てきたような気がする。

 ハルコの声に聞き入る人の姿を。

 彼女の話は、メイに首を傾げさせているようだった。

 何故、カイトが苦しんだのか、意味が分かっていないのだ。

 それは。

 カイトが、メイのことを好きだから。

 答えはその一つしかないのだが、余りに足元にありすぎて彼女には見えていないのである。

 違う方ばかり、キョロキョロとしている。

 しかし、話の中でそのことについては、ハルコは一言も触れなかった。
< 769 / 911 >

この作品をシェア

pagetop