冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「バタバタしてしまって…自己紹介もまだだったわね」

 荷物もそのままで、彼女は近づいてきて。
 静かに綺麗な手を差し出した。握手らしい。

 あ。

 彼女には、握手の慣習があるのか。

 一方、それに慣れていないメイは、ちょっとだけ戸惑った。

 でも、何を込めて握手したらいいのか分からないのだ。

 戸惑ったままだと失礼なので、見よう見まねで手を差し出す。

「私は、ハルコ…よろしくね」

 名乗る声さえ優雅で。

 白鳥の前に連れてこられた気分になった。

 自分の姿は、水鏡で映さなくても分かる。

「メイです…よろしくお願いします」

 声が無意識に小さくなった。
 何をよろしくするのか、分かっているハズもない。

「メイ…可愛い名前ね」

 さらりと、こういう社交辞令を言われることも滅多にない。

 メイは、そんなこと、と思ったけれども、黙って頬を染めた。

 嬉しいと言うよりも、圧倒的に恥ずかしいが先に立つ。

「あの…っ」

 手を離しながら、今度こそ聞こうと彼女はハルコに向かって、ぱっと顔を上げた。

 相手の方が背が高いのだ。

「ああ…そうだったわ…いつまでも、そんな格好じゃ失礼ね」

 なのに。

 ハルコの方が、いつも先手に口を開くのだ。

 メイは、また言葉を奪われてしまった。

「こちらが下着類ね、こっちがブラウス類。それと、スカートやワンピースを何種類か選んできたの…サイズを聞いていくのをうっかり忘れてしまって…大丈夫そうなのを選んできたんだつもりよ」

 最近、ぼんやりしているみたいなの、私。

 意味の分からない言葉が、流れるように語られ出す。

 本人が言うような、ぼんやりした口調ではなかった。

 メイは、内容を把握できず、瞬きをするだけだ。

「それから、こちらの方は日常必要なものね。バスルームに、何にもなくて困ったでしょう?」

 ハルコの笑顔の優しさとは裏腹に、メイは胸が詰まった。
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