冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 カイトは、いつものコンピュータの前に座ると電源を入れた。

 今日の仕事は決まっているのだ。

 削除。

 全部だ。

 カイトは、作成用のディレクトリーごと、本当に丸ごと、一秒のためらいもなく削除した。

 消えた。

 電子データの良いところは、削除すると本当にこの世のどこにも存在しなくなることである。

 どんなに泣こうがわめこうが、絶対に戻って来ない。

 これが紙のデータであれば、焼かない限りは、どこかに存在している可能性がある。

 たとえ破ったとしても。シュレッダーだって、信用ならないような気がするのだ。

 ふぅっとため息をついた。

 もう、あのゲームは存在しない。

 彼が、エンディングを見ることは、一生ないのだ。

 しかし、カイトはそのまま家に帰らなかった。

 ハルコやソウマが来ているのでは、という不安もあったし、久しぶりにプログラムを組む、ということもやりたかった。

 あのゲームを作る前に、やりかけていた仕事を呼び出した。

 冷静だけれども、煩雑としたプログラムの羅列が現れた。


 そしてカイトは―― 異世界の言葉の中に埋もれていった。
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