冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 いや、彼が荒らした部屋も綺麗になっていた。

 正月明けて、ハルコがまたやってきているのだ。

 あのお節介な家政婦と会うのがイヤで、仕事を遅くまでしてきている―― というのも確かにあった。

 放っておいて欲しいのに、彼女もその夫も、何かと自分に絡んでくるのである。

 幸い、退院の日以来、会っていないものの、いつまた急襲されるか分からない。

 土、日はハルコは休みだが、『遊びに来る』などという看板を振りかざさないとも限らなかった。

 もしくはソウマが、その看板でサンドウィッチマンになりかねなかったのだ。

 会社は、彼の防空壕だった。

 きゅっとシャワーのコックを締め、そのまま脱衣所に出ると、床を水浸しにした。

 乱暴に、がしがしとタオルで拭いて着替える。

 シャツにジーンズに。

 そこらの若い男と、何ら変わらない格好になる。

 いや、まだそこらの若い男の方が、余程ファッショナブルだ。

 それから、ジャンパーとサイフを掴むと部屋を出た。

 階段に差し掛かる。

 ジーンズの尻ポケットにサイフをねじ込みながら、冷ややかな廊下に耐えきれず厚手のジャンパーに片腕を通す。

 段を一つ降りていく度に、カイトは少しずつ完成していった。

 最後の一段の時に、反対側の腕もジャンパーの袖に通し終わる。

 玄関に向かってまっすぐ歩く時には、曲がった襟元に手を突っ込んでいた。

 玄関にカギがある。

 そこまで来て、ああ、そうかと思った。

 そういえば、車があったのだ。

 シュウは日曜日だが、もう会社に行ってしまっただろう。

 昨日、出勤するとか言っていたようだった。
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