冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 メ…イ。

 死神は、そんな名前を持っていた。

 こぼれ落ちそうなくらい大きな茶色の目で、自分を見上げている。

 人形のように動きは止まったままで、本当にその存在が生きているかどうか分からない。

 いや、それはカイトだって一緒だ。

 身動きも取れず、目を見開いて―― 相手を見るしか出来ない。

 疑問すら、頭をよぎらなかった。

 ただ、呆然とするより他ない。

 先に電気が流れたのは、相手の方だった。

 はっと我に返ったように、彼女は立ち上がった。

 しかし、そのはずみで手に持っていた鍋のフタを取り落とす。

 ガシャーン、ガラガラ。

 その音は、カイトを我に返らせてくれた。

 もう一度瞬きする。

 本物だった。

 いま、カイトの目の前にいるのは、本物のメイだったのである。

 オレは死んだのか?
 それともこれは夢か?

 分かってもなお、信じられない光景である。

 どうして、いま目の前に彼女がいて、こんなところで鍋のフタを落としているのか、何一つ答えを探せないでいたのだ。

 しかし、いきなり全身に血が巡り始める。

 メイだ。

 メイだった。

 そこに、彼女がいるのだ。

「あ、あの…」

 唇が開く。

 間違いない。

 彼女の声だ。

 いつか、カイトが捨てたジーンズ姿だ。
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