冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 本当は、会社に行こうと思っていたのだ。

 しかし、行けるハズがない。

 彼女がこの家にいて、仕事をしているのだ。

 あのメイが。

 分かるハズがなかった。

 理由なんか、どれだけ考えても思い当たるフシすらなかった。

 だが、彼女を目の前にした途端、こんなにまで胸がかき乱される。

 意識が激しく混乱する。

 ちゃんと考えているフリをして、結局、頭の中は雪崩を起こしているのだ。

 まだ、全然ダメだった。

 ちょっとしたはずみで開いたフタを、カイトはどうにも出来ないでいるのだ。

 ベッドにうつぶせて、目を閉じて、頭を抱えて。

 息を詰めてみても―― あっという間に彼女という存在が、右脳の全フラグを立てて回るのだ。

 全て鮮明に、リプレイする。

 ジェットコースターのようにめまぐるしく変わる画像に、カイトの気持ちの方が追いつけないくらいだった。

 けれど。

 残った気持ちは、たった一粒だけ。


 ――会いた…かった。


 そう、思った瞬間。

 心臓が止まりそうな事件が起きた。

 ドアが、ノックされたのだ。
< 788 / 911 >

この作品をシェア

pagetop