冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「あら、どうして…?」

 そんな格好のままじゃ困るでしょう?

 包みに手をかけて、ハルコはその包装を解こうとする。

 箱詰めの――どう見ても、高い服のような気がした。

 自分が泣く理由もなければ、その服をもらう理由もないのだ。

 それが、痛いくらいにつらかった。

 彼女の存在も。

 ワケもなく泣きたくなるなんて、初めてのことだ。
 いつもちゃんとワケがあったのに。

 パサパサと、紙が解かれていく。

 けれども、その音は逆に、メイをがんじがらめにしただけだった。

「う…」

 声を漏らしてしまった。

 自分でも信じられない。

「…どうかしたの?」

 だから。

 ハルコにもバレてしまったのだ。
 せっかく、うつむいて我慢していたのに。

「何でも…ないで…す」

 唇を手で覆って、首を左右に振る。

 そう言ったら、余計に涙があふれ出してくる。

「何でもないって…何でもなければ、人は泣かないものよ」

 近づいてくる感触があった。

 メイは、動けなかった。

「わかんな…分からな…いんです」

 ぎゅうっと目をつぶったら、ぽたっと自分の頬から、水滴が離れてしまったのが分かる。

「とりあえず、座って…ね?」

 そっと手が回される。

 なだめるような、優しい手に背中をなでられて、まるで魔法のように側のソファに座らされた。

 そうして、頭を抱えてくれる。

「何があったか知らないけれども…泣く時に、そんなにそっと泣いてはダメよ…大きな声で泣かないと誰にも聞こえないわ」

 優しい声。

 母親の記憶は、ほとんどなかったけれども、きっとこんな感じ。

 きっとこんな――

 でも、メイは胸の中で首を左右に振り続けた。

 泣きたいワケじゃないんです。
 泣く理由も、何もないんです。

 そう言いたかったけれども、唇は鉛のように重く、そのまま彼女に抱かれているだけだった。
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