冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「あ、あの…それで…」

 報告はもう終わったのに、ドアを閉ざして出ていかなかった。

 まだそこにとどまって、カイトに何かを伝えようとする。

 慌てた声で、言葉を探しているようだ。

「あの…これから何か予定ありますか?」

 そんなことを言われた。

「もし、なければ…その、一緒にご飯食べに行きませんか?」

 そんなことも言った。

「えっと、その…用意が出来たら降りてきてください。玄関のところにいますから! 待ってます!」

 言い終わると。

 メイは、ぴゅーんとドアの向こうに消えてしまった。

 廊下を走る音と、階段を駆け下りる音が聞こえる。

 カイトは―― 置いてけぼりだった。

 しかも、いま伝えられた3つの文章の意味を掴みあぐねている。

 何だ、と?

 カイトは眉間にシワを寄せた。

 これから、何だと言ったのか、彼女は。

 彼に何をしろと。

 玄関のところで。

 メイが自分を待っている、と。

 他のたくさんの意味は分からないが、彼女は確かにそう言った。

 彼を、待っていると。

 呆然としたまま、カイトはベッドから降りた。椅子にかけたままだったコートを掴む。

 信じられなかった。

 多分、夢だと思った。

 きっと、この部屋を出て廊下を歩き、階段を降りたら、やっぱり玄関は暗いままなのだ。

 誰もいなくて、カイトは胸をちぎられるのだ。

 そうに違いなかった。

 階段を降りていく。

 踊り場を曲がる。


 彼女は―― コートに袖を通そうとしていた。
< 790 / 911 >

この作品をシェア

pagetop