冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□171
「車じゃなくて、バスで行きましょう」

 メイは、まるで遠足に行くかのように、張り切ったオーラをまとっていた。

 状況を把握出来ないままのカイトの前を、そうして歩き出すのだ。

 そのコートの背中に、引っ張られるように彼はついていく。

 5時過ぎ。

 冬は、夕方の5時を越えると、もう外灯にすがるしかない。

 それくらい暗かった。

 そう言えば、いつもハルコは5時くらいまで働いていたか。

 メイもそんな勤務をしているのだろう。

 ということは。

 いつから来ているかは知らないが、きっとこの夜道を歩くのは今日が初めてではないはずだ。

 吹きつける木枯らしに負けないように、メイは前を歩いている。

 ハルコと違って、彼女は車を持っていない。
 だから、バスで通っているのだろう。

 朝も、夜も。

 こんな人通りの少ない道を、大通りまで。

 何かあったら、どうするつもりだったのか。

 それに気づくと、イヤな気持ちがもやもやと、胸の中を立ちのぼる。

 何で!

 何で…家政婦なんかやってやがんだ!

 寒いのに、暗いのに、わざわざバスで通ってんだよ!

 そう怒鳴りたかった。

 彼女にこっちを向かせて、自分を見つめさせて、答えをむしり取りたかった。

 けれど―― その権利は、彼にはなかった。

 メイに対する権利は、もう何一つ持っていないのだ。

 だから。

 分からないまま、ついていくしかなかった。
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