冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 大通りに出ると、夕方の渋滞が始まりかけていた。

 日曜日でも、その渋滞は変わらない。

 仕事に行った連中か、そうでない連中かの比率が変わるだけである。

 どこに行くか分からないバスが、何台も通り過ぎていく。

 バス停には、他の人間もいた。

 2人、黙ってそこに立った。

 メイは、さかんに時計を気にするような、落ち着かない動きだ。

 カイトの方だけは見ない。

 きょろきょろと、バスがそこまで来ているか確認するばかりだ。

 駅に向かうバスが止まった時、ようやくちらっとカイトの方を見た。

 多分、このバスに乗ると言いたいのだろうが、彼女はすぐに視線をそらす。

 メイに続いて乗り込むと、一番後ろの横長い席が空いていた。

 彼女はその席に向かい、奥の窓の方に腰かける。

 カイトは、側に座ることは出来なかった。

 一人分空けて、真ん中に座る。

 うるさい女子高生が、前でペチャクチャペチャクチャしゃべっていた。

 くだらない内容だ。

 メールがどうの、男がどうの。

 カイトは顔を顰めたまま、その声を聞かないようにした。

 それよりも、神経を全部窓辺のメイに向ける。

 彼を、どこに連れて行こうとしているのか。

 こんな排ガス臭いバスの中に連れ込んで、足元だけが熱くなるイヤな暖房に焼かれながら―― どこまで揺られればいいのか。

 うるせぇ。

 メイに意識を向けたいのに、女子高生の高い笑い声がカンに障って邪魔をした。

 イライラする。

 ちらり。

 盗み見ると、彼女は外を見ていた。

 窓ガラスに、その表情が少しだけ反射している。

 唇を少し開いて、また閉じて。

 深呼吸のようなため息をついたのまでは分かった。

 人が乗る。

 降りる。

 どんどん外は暗くなって、ゾウの周囲にハイエナが群がって倒そうとするかのように、バスは渋滞の乗用車に取り囲まれた。

 床の下の大きなエンジンが、雄叫びをあげている。

 次は終点の、駅前バスターミナルだと告げられた。

 降りる以外になかった。
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