冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「ここ、すごくおいしいんですよ」

 のれんの前で、そう言われた。

 居酒屋だ。

 カイトは、目をこらした。

 やっぱり居酒屋だった。

 メイを見ると、がらっと扉を開けて入っていくところだった。

 彼の驚きに、気づいてもいないようだ。

 どうして、彼女がこんな店を知っているのか不思議だった。

 確かに、夕食を一緒に―― そんな風に言われたのだが、まさか居酒屋に連れてこられるとは思わなかったのだ。

「はい、いらっしゃ…あら!」

 中から、明るい女性の声が聞こえる。

 カイトも、ずさんに頭を下げてのれんをくぐった。

「こんばんわ、空いてますか?」

 入ってすぐのところで止まっている彼女の後ろ姿を見る。慣れた感じだ。

 ここにも、カイトの知らないメイが溢れていた。

 掃除をしているのを見た時と、同じような感触だ。

「いま、店を明けたばかりだから、見ての通りよ… 一人? って…ああ」

 女将らしい若い女が、後ろに立っているカイトを見た。

 眉を上げて、一瞬好奇の色を見せた後、にこっと笑う。

 カイトは目をそらした。

「カウンターがいいかしら? どうぞ、こっちの席が静かよ、きっと」

 白い手が2人を案内する。カウンターの向こうの端の席だ。

 メイが奥に入った。

 そして、彼女はコートを脱ぐ。

 その姿をじっと見ていた。

「ほら、あなたもそんな野暮なコートは脱いで脱いで」

 うっかりすると、バシバシ叩かれてしまいそうな勢いで女将が言う。

 その声に我に返って、彼も粗雑な動きでコートを脱いだ。
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