冬うらら~猫と起爆スイッチ~

01/09 Sun.-2

●172
 どうしよう、どうしよう。おかしくないかな。

 メイは笑顔を浮かべていながらも、内心では物凄く焦っていた。

 一人ハイテンションに、ペラペラしゃべりまくっているのだ。

 カイトは、あきれているかもしれない。

 疑惑が胸を掠める。

 しかし、ぶんぶんとそれを払った。
 せっかく、ここまで引っぱり出せた勇気を、台無しにしてしまいそうだったのだ。

 勢いをつけるために、おちょこの日本酒に口をつける。

 あの甘さが、ぱっと口の中に広がった後、胸が熱くなる。

 そうしたら、ますますドキドキしてきた。

 お酒の影響もあるだろうが、カイトがすぐそこにいるのだと、いきなり自覚してしまったせいもある。

 本物だ。

 触れようと思えば、触れることが出来る―― 勿論、そんなことはしなかったが。

 あまりに近くなので、彼の体温が伝わってくるのではないかと思った。

 実際は、暖房のよく効いた店のおかげで、どんなに神経をパラボラアンテナのように開いても、体温を感じることはできなかったが。

 カイトが静かなのには、やはり慣れなかった。

 あの事件が起きる前の彼は、いつも気配からして威圧的だったり攻撃的だったり。

 怒鳴ることを除いたら、全然しゃべる人ではなかった。

 しかし、声にしなくても力強い何かをいつも感じられた。

 いまのカイトは、気配すら黙り込んでいる。

 それは悲しいことだった。

 あの事件が、カイトを変えてしまったのだ。

 あんな、ほんの少し時間の使い方を間違っただけで。

「おまちどうさま」

 料理が運ばれてくる。それに、はっとした。

「あ、おいしいですよ。食べてください」

 カイトに料理を勧める。

 一つの皿の上の料理を、割り箸で二つに割る。

 ハンバーグを思い出してしまった。

 彼と一緒に、半分このハンバーグを食べた記憶だ。

『うめぇ』という言葉が、すごく幸せだった。

 カイトは、しばらく戸惑っていたようだが、半分にされた料理に箸をつけた。

 口に運ぶ。


『うめぇ』―― はなかった。
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