冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 イスに引き戻す。

 不安そうな目。

「あの……」

 次の言葉が探せない目。

 身体が熱い。

 胃の内側から、胸の内側から、瞼の裏側から、どっと熱が溢れてくる。

 目が伏せられる。

 彼の視線に、穴だらけにされるとでも思ったのだろうか。

「あ……どうして……さっき……他の人と……」

 彼女が何か言おうとする。しかし、カイトはその言葉を聞いちゃいなかった。

 その、むきだしの肩。

 イヤだった。

 さっき、自分の足元にひざまずいていた彼女を見た時に感じた衝動と同じものが、更にひどくなって戻ってくる。

 イヤ、なのだ。

 何がどうイヤなのか、自分でもよく分かっていなかった。

 ただ、彼女がここにいて、こんな格好で、こういうことをしているのがイヤだったのだ。

「何で……おめーは……んなトコで働いてんだよ」

 カイトは――掴んだ手首を離せなかった。

 どう見ても、いい家庭で素直に育ってきた女だ。
 そんな女が、何故こんなところで。

 小遣い稼ぎなら、もっと別の手を考えればいいのに。

 ヤバイ男でもついてんのか。

 カイトの頭の中が先走る。

「それは……」

 彼女は言いよどむ。

 手を掴まれたままうつむいて、言葉を途切れさせてしまった。

「金か……?」

 カイトは、単刀直入に口にした。

 彼女の身体が、また硬直したのが分かった。
 掴んでいる手首から伝わってきたのだ。

 いや、伝わるまでもなく、見ればすぐ分かる。

「言いたく……ないです」

 声が、震えていた。

 気丈に、いろんなものをこらえている音に聞こえて、カイトの胸をしめつける。

「言え!」

 しかし、カイトは許さなかった。

 踏み込む権利は、彼にはない。

 しかし、権利とかそういうものを、カイトは考えてもいなかった。

 どうしても知りたかったのだ。


「言えっつってんだろ!」


 その固い身体を。

 カイトは。

 抱きしめていた。
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