冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□173
出したサイフのやり場を失う。
メイが、ここの勘定を自分で持つと言ってきかなかったからだ。
本当は、そんなことはイヤだった。
女とメシを食いに出て、女に支払いをさせるなんて。
でも、彼女が余りに熱意を持ってそれを伝えてくるために、ついに押し切られてしまったのだ。
2人分の支払いをする時のメイは、すごく嬉しそうで―― 結局、彼は口さえ挟めなかった。
その顔を、見ているしかできなかったのだ。
要するに。
みとれてしまったのである。
クソッ。
そんな自分にハッと我に返り、彼は先に外に出た。
尻ポケットにサイフをねじ込みながら。
途端。
寒風が吹きつけてくる。
あちこちで下世話な光がチカチカしている以外は、とにかく暗い。
その冷たさと暗さが、いまを現実だと教えてくれる。
現実?
メイが現れて、自分と一緒にバスに乗り、居酒屋でメシを食い、そしていま出てきたところなのだ。
そんな現実が、この寒さではっきりと、カイトに押しつけられたのである。
大きくて持ちにくい荷物だ。
中身に何が入っているか、まったく分からない。
だが、彼はそれを抱えていなければならなかった。
もしも、自分の意思で投げ捨てようものなら、もう二度とその荷物を拾うことはできないだろう。
いや。
本当は、それ以前の問題だったのだ。
荷物が彼の前に現れるはずもなく、それを抱えることもできなかったはずなのである。
いま持っていること自体が、すでに信じられない現実だった。
だから。
自分から、絶対に投げ捨てることが出来ない。
どんなに重くても、たとえ中にどんな化け物が入っていたとしても、彼はきっとずっと抱えているだろう。
出したサイフのやり場を失う。
メイが、ここの勘定を自分で持つと言ってきかなかったからだ。
本当は、そんなことはイヤだった。
女とメシを食いに出て、女に支払いをさせるなんて。
でも、彼女が余りに熱意を持ってそれを伝えてくるために、ついに押し切られてしまったのだ。
2人分の支払いをする時のメイは、すごく嬉しそうで―― 結局、彼は口さえ挟めなかった。
その顔を、見ているしかできなかったのだ。
要するに。
みとれてしまったのである。
クソッ。
そんな自分にハッと我に返り、彼は先に外に出た。
尻ポケットにサイフをねじ込みながら。
途端。
寒風が吹きつけてくる。
あちこちで下世話な光がチカチカしている以外は、とにかく暗い。
その冷たさと暗さが、いまを現実だと教えてくれる。
現実?
メイが現れて、自分と一緒にバスに乗り、居酒屋でメシを食い、そしていま出てきたところなのだ。
そんな現実が、この寒さではっきりと、カイトに押しつけられたのである。
大きくて持ちにくい荷物だ。
中身に何が入っているか、まったく分からない。
だが、彼はそれを抱えていなければならなかった。
もしも、自分の意思で投げ捨てようものなら、もう二度とその荷物を拾うことはできないだろう。
いや。
本当は、それ以前の問題だったのだ。
荷物が彼の前に現れるはずもなく、それを抱えることもできなかったはずなのである。
いま持っていること自体が、すでに信じられない現実だった。
だから。
自分から、絶対に投げ捨てることが出来ない。
どんなに重くても、たとえ中にどんな化け物が入っていたとしても、彼はきっとずっと抱えているだろう。