冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 いきなり現れたメイに押しつけられた、いびつな荷物。

 開ける権利は、カイトにはない。

「それじゃあ、また」

 店の中に向かってそう言いながら、メイが出てくる。

 のれんの軽い音がして、真横に気配が来た。

 カイトは突っ立ったままだ。
 彼女の方を見ることもできない。

「…よかったら、少し歩きません?」

 酔っちゃいました。

 メイは、二、三歩前に出た。

 そうして、まるではしゃぐみたいな笑顔で振り返る。

 彼女の言っている通り、少し酔ったのだろう。

 顔が赤い。

 楽しそうな笑顔について、カイトは無言で歩き出した。

 彼は、酔えていなかった。

 日本酒を、何杯かちびちびやっただけである。

 量的なものもあるが、今の信じられない現実の前で、無防備に酔うことができなかったのだ。

 少し前をメイが歩く。

 彼女が曲がるところでカイトも曲がり、ずっと黙って歩いた。

 声をかけると、目の前を歩く背中が消えてしまいそうだった。

「雪、降ればいいですね」

 彼女は振り返ると、意味不明な言葉をかけてきた。

 ただでさえこんなに寒いのに、この上、雪なんか降って、何が楽しいというのか。

 いや。

 それが、メイだった。

 平凡な天気の話を、さも大事なことのように言うのだ。

「雪ってやっぱり特別だと思いません? ふわふわひらひら、破片みたいに落ちてきて…あれが水で出来ているなんて、子供の頃は信じられなかったんですよ」

 メイは右に曲がりながら言った。

 児童公園の方だ。
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