冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 少し先の外灯に、すべり台が照らされている。

 しん、とした誰もいない公園。

 そんなに雪が好きなら、降らせてやりたかった。

 だが、そういう力は彼にはない。

 カイトの使える魔法は、もっと下界のことに限定されているのだ。
 しかし、彼女はそんなものを望まない。

 欲しいのは雪なのだ。

 彼は、同じように曲がりながら空を見上げた。

 ぽつぽつと、一等星だけが輝く空。

 地上が明るいせいだ。

 けれども、星が見えるということは、晴れているということだった。

 空の悪戯もありえない。

 ふっと。

 カイトは、視線を空から戻す。

 瞬間、ドキッとした。

 視界にメイがいなかったのだ。

 もしかして、さっきまでのは夢で、彼女は消えてしまったかと思った。

 心臓が冷たく縮む。

「雪は…」

 しかし。

 声はすぐ左側から聞こえた。
 はっと見ると、いつの間にか横を歩いていたのだ。

「雪は…これじゃあ降りませんね」

 彼女が、多分空を見上げたのが分かる。

 ああ。

 魔法がお金で買えるというのなら、絶対にこの時のカイトはそうしただろう。

 いくらかかってもいいから、彼女のために雪を降らせてやりたかった。

 それから、彼女は黙ってしまった。

 ゆっくりと、ただ歩くだけ。

 横に並んで。
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