冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 すべり台が近づいてくる。

 誰かが捨てたパンのビニール袋が、目の前でもんどりうつように飛ばされて行った。

 カイトはそれを見ていた。

 何か一瞬―― 指に当たった。

 …?

 カイトは、それが何なのか分からない。

 しかし、もうその感触はなかったので、気にするのをやめて歩いた。

 少しして。

 また、何か指に当たった。

 もう一回。

 もう一度。

 また。

 指に、何か当たる。

 次の瞬間、カイトは目を見開いた。

 彼の左の指に、何かひっかかったのである。

 歩くときに無意識に動いていた腕が、それに抑制される。

 何、だ?

 最初は、ちょっとした抵抗感だった。

 そして冷たかった。

 なのに、一歩歩くごとに―― 探るように、まるで確かめるように手の中に近付いてくるのだ。

 きゅっ。

 手に、何かの力がしっかりとかかった。

 カイトは。

 信じられなかった。

 彼の神経が狂っていなければ、いま、誰かに左手を握られているのだ。

 誰か。

 確認する必要もないハズだった。

 しかし、それが一番信じられない相手なのである。

 何故、彼女が自分の手を握る必要があるのか。

 だが、ふりほどけるハズもなく。手を握られたまま歩く。

 冷たい、手。

 そうだ。

 彼女も自分も、手袋さえしていないのだから。

 触れあっている部分が、ほんの少しだけ温度を取り戻しつつあった。

 メイの―― 体温。
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