冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「今日は…」

 間違いなかった。

 左側。

 まるで寄り添うほどすぐ側から、彼女の声が聞こえてきた。

 静かな声。

「今日は…今日のこれは、実は…デートだったんですよ」

 何を。

 何を言っているのか。

 しかし、彼女の方を振り向けない。

「ずっと…こうやって、一緒に歩いてみたかったんです。一緒にご飯を食べて…えっと、お金もホントは割り勘にして…普通みたいにデートしてみたかったんです」

 やっと夢がかないました。

 メイの歩く速度が、少し落ちた。

 思い出すように、時々言葉を止めて、またしゃべる。

 手はまだ握られている。

 カイトは、呆然と歩くまま。

 まだ、何の意味も掴めていなかった。

「ずっと…」

 きゅっと、握られている手に少し力がこもった。

「ずっと、こうしたかったんです…ずっと、ずっと…ずっと」

 きゅうっ。

 一つ「ずっと」を言う度に、どんどん力がこもってくる。

 彼女の手が、すごく熱くなってきたような気がした。

「ずっと、ずっと…ずっと、好きで」

 ぎゅう。

 声が―― 掠れた。

 にじむような音に変わっていく。

 手はもう、痛いくらいに強く、熱く。

 カイトは、ついに足を止めてしまった。
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