冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 もう。

 涙が溢れて―― 身体も、崩れ落ちてしまいそうだった。

 このまま、地面に座り込んで泣き伏してしまいたかった。

 ぎゅっ。

 手に、自分以外の力がかかった。

 メイは、目を見開いた。

 ぎゅうっ。

 その手が、さっきよりも強くなる。

 彼が―― 握り返してくれている。

 信じられなかった。錯覚かと思った。

 けれども、その力はどんどん強くなる。

 もう、メイが握っている手の強さなんかとっくに越えて、握りつぶされてしまうんじゃないかと思うくらい痛くなった。

 あ。

「あ…」

 メイは、それを声にした。涙で掠れた声になる。

 これは、夢なのだろうか。

 それとも、横を向いたらカイトはいなくて―― 違う何かがいるのではないかと思った。

 唇を震わせたまま、信じられないまま、メイは彼の方を向こうとした。

 ぱっと。

 手が離された。

 ああ。

 触れ合っていた部分がなくなる。

 途端、冷たい空気が彼女の手を包んで、さっきまでが錯覚であったかのように思わせる。

 ああ、やっぱ…。

 やっぱり。

 そう、メイの心がその言葉の形を作ろうとした時。

「…!」

 身体に強い衝撃が来た。

 気づいたら誰かが―― すぐ側にいた。

 目の前に、身体があるのだ。

 いや、激しく接触している。

 自分の背中にかかる力が、もっともっとその身体の方に密着させようとしている。
< 810 / 911 >

この作品をシェア

pagetop