冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 何?

 これは…何?

 メイは、分からなかった。

 手は、冷たい。

 もう、誰も握ってくれない手は、空中を泳いだまま。

 なのに、胸がこんなに暖かい。

 誰かが、彼女を包んでいるのだ。

 熱く、激しく、抱き竦めているのだ。

 …トだ。

 顔は、見えない。

 …イトだ。

 カイトが。

 彼が、いま自分を強く抱きしめているのだ。

 カイトは、彼女を抱きしめる腕に更に力を加えた。

 あ…。

 あ…あ…。

 メイは、自分の両腕がどこにあるのか、一瞬分からなかった。

 神経をたどって見つけるやいなや、彼女はカイトの背中にすがりついた。

 もっと!

 もっと、もっと、もっと!

 もっと、側に来て!

 もう、意味とか理由とかどうでもよかった。

 彼が抱きしめてくれた。
 彼を抱きしめられる。

 その事実だけあれば、他に何もいらなかった。

「好き…き…」


 何度繰り返しても―― 涙でぐちゃぐちゃの声しか出なかった。
< 811 / 911 >

この作品をシェア

pagetop