冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 とにかく、この手を離すのがイヤだったのだ。

 強く握っている手が、震えているような気がする。

 アンテナを彼女に向けると、メイが泣いているのが分かった。

 震えているのではなくて、しゃくりあげた瞬間の感触だったようだ。

 泣くな。

 胸にヒビが入る。

 いや、もう既に半分抉られていた胸だ。

 残った分もひびだらけだ。

 固く岩のように硬化していた胸に、彼女の涙のしずくがぽたぱたと落ちて色を変えていく。

 夏のコンクリートが、夕立をそんな風に受け止めるみたいに。

 泣くな。

 身体が、カァッとする。

 その色を変えた心から、溶岩が溢れだしてくるのだ。

 もう死んだと思っていた、彼女へのたくさんの衝動がわきあがってくる。

 どれ一つとして、死んでなどいなかった。

 宮殿のガーゴイルのように、石になっていただけだったのだ。

 石化の魔法が、解ける。

 解けた途端。

 彼が、ずっとこれまで押さえつけていた衝動が溢れる。

 手じゃ。

 手なんかじゃ、全然足りないのだ。

 ふりほどいた。

 気づいたら―― 抱きしめていた。

 ずっと。

 それこそ、本当にずっとこうしたかった。

 何度この衝動をこらえただろう。

 彼女が家にいる間、あらゆる場面で抱きしめたい気持ちが溢れていた。

 だが、それはしてはいけないことだった。

 だからカイトは、ずっとその気持ちを押さえつけてきたのだ。

 そんなことをすれば、きっと拒まれる。

 拒まれなければ、それは借金のせいで抵抗できないのだと。

 しかし、どうしてだ。

 彼女は、自分からまた戻ってきた。

 カゴから出したというのに、鳥は帰ってきたのだ。

 猫にしてみれば、信じられない現状である。

 猫の頭の上にとまった。

 そして、歌った。

 抱きしめた。
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