冬うらら~猫と起爆スイッチ~

01/09 Sun.-3

●176
 ストーブをつけに行こうと思った。

 他の暖房器具は何もなく、いま帰ってきたばかりの部屋は、とても寒いのである。

 このままでは、余りの寒さに2人とも、コートさえ脱げないだろう。

 あの公園でひやかされて、はっと我に返った。

 気がついたら、カイトの腕に抱きしめられていて、涙でぐちゃぐちゃで。
 恥ずかしさが、かっと火のように身体の中を駆け巡った。

 混乱しているし泣いて興奮もしている。

 こんな顔を見られたくもなかったし、ここから早く逃げ出したかったのだ。

 動揺したまま、慌てて彼の手を捕まえて、家に連れてきてしまった。

 何で。

 何で、抱きしめてくれたんだろう。

 あんなに力強い腕で。

 メイは、答えの回廊の中を駆けめぐったが、こんな状況で答えなんか出せるはずもなかった。

 まだ、後ろにはカイト本人がいるのである。落ち着けと言われても無理だ。

 とにかく、ストーブをつけてお茶を入れなければ。

 お湯を沸かして、それからそれから。

 メイは、足がもつれそうになりながら、ストーブに近付こうとした。

 なのに。

 まさか。

 抱きしめられてしまうなんて。

 あとちょっとでストーブだというのに、彼女は身動き一つ出来なかった。

 背中に強い圧迫感を感じる。胸にも。

 気づいたら、彼の腕が自分の胸に回っていた。

 腕時計が見えた。

 あの、銀のアナログ時計だ。

 回された手首に、それが光っていた。

 カイトだ。

 その腕を見れば分かる。

 彼が、背中からメイを抱きしめているのだ。
< 817 / 911 >

この作品をシェア

pagetop