冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 でも。

 いまカイトは、同じ呪文をメイに向かって言ったのだ。

 私に。

 好きだ、と。

 誰も…。

 お願い、誰も私を起こさないで。

 呆然としたまま、彼女はそう思った。

 背中の感触も、彼の腕も、いまの言葉も―― もしここで目が覚めて、「もう朝だよ、おはよう」なんてことになったら、もう二度と笑うことは出来ないかもしれない。

 二度と、誰にも。

 溢れてきた。

 あと一秒を願えば願うほど、ぽたぽたと涙が溢れてきた。

 もしも、これが夢なら―― 目覚めと同時に、死んだ方がマシだった。

 目覚めないまま、殺して欲しかった。

 こんな夢!

 涙で濡らしてしまった彼の腕が、そっと解かれた。

 その腕が、彼女を自分の方に向かせようとする。

 もう!

 メイは、彼の胸に飛び込んだ。

 どん、と強く胸にぶつかる。

 とにかくがむしゃらに腕を伸ばして、彼を抱きしめた。

 もう、どうなってもよかった。

 腕が痛くなるくらい強く彼を抱きしめて、その胸に涙を押しつけて、声をあげて泣きじゃくった。

「好きなの…あなたが……っ…好きな…うぅ…」

 ずっと、ずっとこうして欲しかったの。

 カイトが、強く背中を抱きしめる。

 ぎゅっと、ぎゅっと、彼女を抱きしめてくれる。

「好きだ…っ」

 振り絞られる声。

 カイトの声。

 メイを好きだと言う、彼の声。
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