冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□
「ハルコか?」
カイトの電話での第一声はそれだった。
社長室に一人きり。
秘書も近づけさせずに、受話器を取る。
絶対にあの車の中で、電話をかけたくなかったのだ。
シュウの耳に記憶されるなんて、まっぴらゴメンである。
『はい』
穏やかな、聞き慣れた声だ。
一時期は、本当に毎日、この声を聞いていた。
直接でもケイタイでも。
どこへ行くのも一緒だったのだ。
『あの…』
何か言いたげな声。
時計を見る。
来ていてもおかしくない時間だった。
もしかしたら、もうメイの前にいるのかもしれない。
「オレの部屋に…あー…女がいるけど…気にすんな」
奥歯に苦虫をはさみながら、カイトはうなり声を交えて、ようやくそれを絞り出した。
反応に一瞬間があったのすら腹が立つ。
すぐに、『はい』と言えばいいのだ。さっきのように。
なのに答えは、『そうなんですの』ときたものだ。
「いーから、気にすんな! 分かったな!」
言うと、『分かりました』とは答えるものの、『そうでしたの』とか、また余計なコメントをつける。
ムッ。
電話を持つ手に力がこもってしまった。
「そのまま放っておけ…ああ、そうじゃねー…クソ…うー…何か、そいつの着るもん買ってこい…金は、おめーに渡してるカードがあんだろ」
何でこんなに言い慣れていないことを、自分が言わなければならないのか。
しかし、いつまでもあのシャツ姿でいられるワケにもいかないのだ。
彼の部屋には、メイに似合うものは何一つないのだから。
ハルコには、カイト名義のカードを持たせてある。
勿論、小回りの利く現金も渡してあるのだが、そんなに大金ではなかった。
受話器の向こうが笑った声になる。
ハルコは声をあげて笑うよりも、目で笑う。声の端で笑う。
それが分かった。
そして――言った。
「ハルコか?」
カイトの電話での第一声はそれだった。
社長室に一人きり。
秘書も近づけさせずに、受話器を取る。
絶対にあの車の中で、電話をかけたくなかったのだ。
シュウの耳に記憶されるなんて、まっぴらゴメンである。
『はい』
穏やかな、聞き慣れた声だ。
一時期は、本当に毎日、この声を聞いていた。
直接でもケイタイでも。
どこへ行くのも一緒だったのだ。
『あの…』
何か言いたげな声。
時計を見る。
来ていてもおかしくない時間だった。
もしかしたら、もうメイの前にいるのかもしれない。
「オレの部屋に…あー…女がいるけど…気にすんな」
奥歯に苦虫をはさみながら、カイトはうなり声を交えて、ようやくそれを絞り出した。
反応に一瞬間があったのすら腹が立つ。
すぐに、『はい』と言えばいいのだ。さっきのように。
なのに答えは、『そうなんですの』ときたものだ。
「いーから、気にすんな! 分かったな!」
言うと、『分かりました』とは答えるものの、『そうでしたの』とか、また余計なコメントをつける。
ムッ。
電話を持つ手に力がこもってしまった。
「そのまま放っておけ…ああ、そうじゃねー…クソ…うー…何か、そいつの着るもん買ってこい…金は、おめーに渡してるカードがあんだろ」
何でこんなに言い慣れていないことを、自分が言わなければならないのか。
しかし、いつまでもあのシャツ姿でいられるワケにもいかないのだ。
彼の部屋には、メイに似合うものは何一つないのだから。
ハルコには、カイト名義のカードを持たせてある。
勿論、小回りの利く現金も渡してあるのだが、そんなに大金ではなかった。
受話器の向こうが笑った声になる。
ハルコは声をあげて笑うよりも、目で笑う。声の端で笑う。
それが分かった。
そして――言った。