冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 ああ。

 メイは、もっと腕に力を込めた。

 まだ、全然分からない。

 これが本当のことかどうか。

「もっと…もっと…ぎゅっ…て」

 しゃくりあげながら、その隙間から、必死に声を探した。

 お互いのコートに窒息してしまうくらい、もっと側に引き寄せて、抱きしめて欲しかった。

 そうでないと、絶対にこの事実を受け止められない。

 ぐっと、彼は腕に力を込めた。

 背中と胸の圧迫感が、それを教えてくれる。

 でも、まだそれだけでは足りなかった。

 どんなに腕に力を込めても、これ以上彼との距離は詰められないのだ。

 それでもまだ、全然カイトという存在が足りなかった。

「もっと…!」

 壊れてもいいから。

 悲鳴のように声をあげた。

「…だ」

 額に―― 吐息の感触がした。

 前髪を唇でよけるようにして、苦しげな息がつかれる。

 それが、押しつけられたのが分かった。

 抱きしめていた彼の指が、背中から外れる。それだけで不安になるメイの両の頬を捕まえられた。

 大きな手。
 でも熱い。

 それが、彼女の顔を上に向かせる。

 瞼に柔らかい感触が押しつけられた。

 目を閉じると、瞳の中にたまっていた涙が、溢れだした。

 それを、彼の唇が追いかける。

 頬を掠めた。

 指が、濡れた頬を確かめるように何度も何度も動く。

 メイの輪郭をたどるみたいに、ぎこちなく何度も。

 最初に唇に触れたのは、指。

 でも、すぐ違う熱い感触に変わった。
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