冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 あ。

 焼けそうになる。

 焼けそうなくらい、熱く柔らかい感触が押しつけられた。

 息が―― 出来ない。

「ん…っ」

 嗚咽がまだ残っていて、その苦しさに身体がビクンッと震えた。

 でも、唇は離れなかった。

 それどころか、もっと強く押しつけられる。

 拒んだりしなかった。するはずがない。

 抱きしめられても、足りなかった。

 でも、キスでもまだ全然足りないのだ。

 もっと深く、彼の存在を分かりたかった。

 苦しくて開いた唇に、もっと熱い感触が押し寄せる。

 だが、彼の背中に回した腕を解いたりしなかった。

 それどころか、もっと強く抱きしめた。

 でも、まだ分からない。

 届いた気がしない。

 彼に触れた気がしない。

 現実だって分からせて!

 頭を抱かれた。

 乱暴な動きだったそれが、もっとメイの唇を近づけようとする。

 荒れ狂う心臓と彼の吐息だけに、聴覚の全てを持っていかれる。

 でも、それではまだ全然ダメだった。

 視覚も触覚も嗅覚も、何もかも奪い尽くして欲しかった。

 全部…持っていって。


 本当にもう―― どうなってもよかった。
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