冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「バカや…ろう」

 自分に向かって唸る。

 ちゃんと分かっていたら、彼女を泣かせたり傷つけたり、こんな寂しいところに一人置いていたりしなかったというのに。

「お願…い…もっ……もっ…と…」

 強く抱きしめて、と懇願するメイ。

 愛しい。

 ずっとこんなに愛しかったのだ。

 離れて生きていけると思ったのか、こんなに愛しい存在と。

 腕の中に置いてなお、飢えるような足りなさを感じ、満たしたいという気持ちでいっぱいになる相手と、これから一生離れて暮らせると、本当に思っていたのか。

 信じられなかった。

 また、ぎゅっと抱く。

 お互いのコートの感触を、何度も何度も抱きしめた。

「クソッ…!」

 しかし、足りなかった。

 カイトはばっと彼女を引き剥がすと、自分のコートを脱ぎ捨てた。

 瞬間。

 ハッと動きを止めた。

 冷たい汗が、背筋を落ちる。

 こんなに荒れ狂っている自分を、止める自信がなかった。

 しかし、それではまた、彼女に乱暴しかねなかったのだ。

 記憶が、彼の足に枷をつける。

 ベッドの上で力を抜かれてしまったあの光景が、カイトの神経を冷たく縛ったのだ。

 また、メイを。

 そう思ったら、カイトはコートを脱ぎ捨てたまま動けなくなった。

 それどころか、もう一度彼女を抱きしめる自信がなかった。
 コートなしで抱きしめたら、もっと彼女の感触を知りたくなる。

 何もかも、むしり取りたくなる。

 自分のも―― メイのも。

 また、同じコトを繰り返したら。

 カイトは。


 動けなかった。
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