冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 なのに。

 ハッと、カイトはその音に顔を向けた。

 自分の目に飛び込んできた光景を、彼は信じられなかった。

 グレイの目を大きく見開いて、彼女の姿を見た。

 メイが。

 彼女が、もつれる指で―― 自分のコートのボタンを外していたのである。

 もう、こんなものを着ていることさえ、耐えられないかのように。

 驚いて見ているしか出来ない。

 そんな彼の前で、コートが脱ぎ捨てられた。

 しかし、指はそこで止まらなかった。

 そのまま、下に着込んでいたジャケットのボタンも外してしまったのである。

 ばさっと、足元に落ちた。

 そして。

 同じ勢いのまま。

 ブラウスのボタンを外そうとしたのである。

 稲妻が。

 カイトを撃ち抜いた。

 思いは―― 同じだったのだ。

 欲しいと思う気持ちは、自分だけじゃなかったのだ。

 メイも、カイトを欲しいと思っている。

 こみあげる気持ちを、カイトは眉をぎゅっと寄せることで押しとどめた。

 手を伸ばす。

 そして、ボタンにかけられた彼女の手を握り込む。

 ビクンッ、と震える身体。小さな手。

 動きを止めたメイは、うつむいた。
 髪が、カーテンみたいに彼女の表情を隠す。

「いや…?」

 小さな声だった。

 本当に消えてしまいそうなくらい、小さな声。

 不安で怖くて震えている声だ。

 カイトは目をひんむいた。

 何ということを、彼女は聞くのか。

 それを聞きたかったのは、カイトだというのに。
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