冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●178
 もっとカイトに近づくには、この衣服は余りに厚手で邪魔だった。

 彼が上着を脱ぎ捨てたのを見て、メイはいてもたってもいられなくなった。

 もっと、カイトを感じたい。もっとそばで、ぎゅっと彼の体温を感じたい。

 衝動みたいに身体の中をかけめぐった。

 だから、もどかしい指で自分のコートをむしりとったのだ。

 ジャケットも邪魔。
 ブラウスだって。

 そのボタンを外しかけたところで、彼の手がぎゅっと上から止めるように握り込んで来た。

 彼の手から感じる熱と力に、心臓がドキンと跳ね上がる。

 そこで初めて、自分が脱ごうとしていたのを、カイトに見られていたのだと分かったのだ。

 自分だけが暴走しているような気になって、全身が恥ずかしさに熱くなる。

 そんな顔を、見られたくなくてうつむいて。

 あきれただろうか。

 メイは怖くなる。

 でも、このままじっとしているなんて耐えられなかったのだ。

 もっと彼を知るためには、このコートもジャケットもブラウスも、全部邪魔だったのである。

 こんな気持ちになったのは、カイトにだけだ。

 他の誰にも、いままで一度だってやったことはない。

 けれども、彼がそれを知っているはずもなかった。

 もしかしたら、こんな女だと思われてしまったかもしれない。

 誰にでもこんなことをしているような。

 違うの。
 そうじゃないの。

 カイトだからこそだ。

 離れていた分、会えなかった分を、いますぐにでも埋めたかったのだ。

 どんな記憶よりも、あの一番寂しかった記憶をナシにしてしまいたかった。

 好きだった。

 彼も、自分にそう言ってくれた。

 まだ信じられない。

 本当にそれが、いま自分の手の上にあるのか分からないのだ。

 ぎゅっと握りしめたかった。

 苦しかった気持ちを、彼にぶつけてしまいたかった。
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