冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 わがままでも。

 そう分かっていても、メイは自分を止めることができないような気がしたのだ。

 しかし。

 恋は、一人では成就させることができない。

 好きの重さや意味は、人によって違うのだ。

 彼女はこんなにまでカイトにおかしくなってしまったけれども、相手はそうじゃないかもしれない。

「いや…?」

 気持ちの重さは、全然違うのかも。

 離れている間、あんなに苦しかったのは、実は自分一人だけで―― カイトは、本当はたいしたことはなかったのかも。

「バカや…!」

 驚いた声があがる。

 信じられないような声でもあった。そして、怒ってもいた。

 そのまま、強い力で抱きしめられた。

 いま彼女の考えた怖いことを全部、ひっくり返して踏みつけるような抱擁だ。

 ああ、カイトだ。

 こうやって抱きしめられると、身体全体が彼を感じようと一生懸命になる。

 体温も感触も痛みも呼吸も、全部吸収したくてしょうがなくなるのだ。

 ほんの少しのとりこぼしもないように。

 あっと思ったら、カイトはすごい勢いで彼女を抱き上げると、どこかに連れ去ろうとする。

 いきなり視界が回転した。

 天井を見た。

 気づいたら、ベッドの上だった。

 彼の身体ごしに、天井を見ていたのだ。

 離れようとする身体に気づいて、メイはぎゅっと彼の首を抱きしめた。

 離さないで欲しかった。

 もう二度と、この腕が解けなければいいと思った。
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