冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「優しく…できねぇ」

 せっぱ詰まったような、苦しい声で呻かれる。

 優しくなんて!

 メイは頭を打ち振った。

 優しく離れられてしまうくらいなら、ひどくても側にいて抱いて欲しかった。

 そんな優しさなんかいらない。

 折られてもいいから、彼にぎゅっとされたかった。

「ひどくて…いいの。あなたがそこにいるって、私に教え…」

 言葉の最後は、カイトに噛みつかれた―― 唇を。

 激しくて熱くて、心臓が止まるか壊れるかするに違いないと思えるほど、強いキス。

 苦しい。

 唇の内側に、カイトが割って入ってきたのが分かった。

 首筋がゾクリとして、横になって目をぎゅっとつむっているのに、めまいを感じるほどだ。

 血の流れがおかしくなって、世界の上下が分からなくなる。

 でも、メイは彼を離したりはしなかった。

 いますがりたいのは、この身体だけなのだ。

 荒々しく唇の隙間から息をついで、でもカイトも離さないでくれた。

 大きな手で、彼女の頭を抱えるようにして、何度も何度もキスという水の中に沈められた―― 呼吸ができない。

 カイトは、もがくようにその片方の手を頭から離して、身体を探る。

 触れる、ではない。

 強く探られるのだ。

 彼は、いまどこに触れているかも分からないようながむしゃらさで、力をぶつけてきた。

 乱れた息づかいを、唇の側で感じる。

 唇が離れているのだ。

 いや。

 メイは一生懸命顎を伸ばした。

 その唇に触れ合わせる。
 カイトの吐息を飲み込む。

 まだ、身体は隙間だらけなのだ。

 隙間を全部カイトで埋めてしまわないと、いまにも死んでしまいそうだ。

 急性カイト欠乏症という病名以外、絶対にありえなかった。
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