冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「メイ……」

 ビクンッ。

 彼女は身体を震わせた。

 いま、誰かに自分の名前を呼ばれたのだ。

 耳のすぐ側で。

 カイトの、声だ。

 彼が、名前を呼んでくれたのだ。

 自分の名前を、覚えていてくれたのである。

 いままで、そんな風に呼ばれたことはなかった。

 最初のタクシーの中で、名乗っただけである。

 たった一度だけ、彼に告げた本当の名前。

 それを、カイトは呼んでくれたのだ。

 メイも、腕にもっと力を込めた。

「カイト!」

 ぎゅっと。

 一生懸命名前を呼ばないと―― また涙が溢れてきそうだった。
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